「アカデミアの戦略的ガバナンス研究」
研究主旨

日本政府は過去30年ほどの間、科学技術の更なる振興を図るために、アメリカを中心に展開されてきた技術移転や知的財産制度などの多くの政策を導入してきた。それは、高等教育政策の1990年代からのアメリカ・モデルへの再回帰の流れと連動している。しかしながら、それらの政策が、日本の研究大学の活性化、日本の科学技術イノベーションの国際競争力の強化につながっているだろうか?
その不調の大きな原因としては、第一に、科学技術政策が、戦後のキャッチアップ型政策の念頭にあった既存の科学コミュニティを前提としてきたこと、第二に、研究者の側にも研究大学の側にも、伝統的なアカデミアの理想と政府(および納税者)の求める方向との乖離を、正確に理解し融和する意識や努力が欠けていたことが挙げられよう。日本においては、政府の政策を適切に理解し、それを実際の科学技術の創出と結びつけるための組織の力が、財政的支援の受け手であるアカデミアに決定的に不足している。
しかしながら、アカデミア・コミュニティの意識改革は必要であるとしても、これまでの齟齬を個々の科学者や研究者にのみ求めるのは間違っている。重要なことは、多様な研究志向をもつ科学者、組織内の制度、大学外部の組織などの多くのアクターを結びつけ、それを実現性の高いイノベーションへと繋げて行く、研究組織そのものの「知識のマネジメント」の改革であろう。このような大学のマネジメントの力が強く意識されるようになったのは、1980年代からのアメリカのアカデミアに始まる。本格的な知識基盤社会が到来し、ICT やバイオテクノロジーといった産業と大学の関係が深まるに応じて、かの国の大学は、アカデミアの制度改革を自らの力で行なってきたのである。

本プロジェクトを推進する問題意識は三つの点にある。第一は、日本においては、高等教育政策と科学技術政策を融合して捉える視点が弱かったために、研究大学の科学技術イノベーションへの貢献を、政策としてサポートする体制が確立されていないことである。第二は、研究大学の作り出す科学技術は国家の成長戦略や安全保障と密接に関わっているという認識が、高等教育政策にも研究大学の当事者にも欠けていることを挙げたい。さらに、高等教育を財政的にサポートしてきた国の政策に、研究大学を「独立のアクター」として認識する姿勢が欠けていたのではないだろうか?研究大学を社会のアクターとして捉え、それぞれが自らのマネジメントやガバナンスで描き出す成果を研究大学全体の公益へと導いて行くような政策的視座が、日本の高等教育政策に抜け落ちているように思われる。

研究大学および学術研究機関が作り出す研究のシーズを、組織内部の様々なアクターや外部機関と「恊働」してイノベーションへと繋げるための「メタ・システム」の基盤が日本の高等教育では決定的に脆弱である。本プロジェクトの目的は、そのようなシステムを作り出すマネジメントはいかなるものか実証的に明らかにし、それを日本の研究大学で実装可能にするための政策を提言することである。

研究代表
上山 隆大
政策研究大学院大学教授